唐澤富太郎コレクション

 日本の教育史研究は、政策や制度といった文献中心主義の時代が長く続きました。こうした潮流に対し唐澤富太郎は子どもの生きた姿や教育の実際の姿を浮き彫りにしようと、実際に子どもが学び、遊んだ実物を収集して、それを基にしたまったく独自の日本教育史のフィールドを構築しました。その集成が現在の唐澤富太郎コレクションとなっています。
埼玉県川越市の明文堂で教科書用版木を収集しているところ(昭和43年頃)。これらの版木は衝立に姿をかえて博物館に展示されている。 個人で収集することは、楽しくもあると同時に大変な苦労を強いられる作業でもありました。全国各地を巡り、重く、大きく、ほこりにまみれた資料を宝物の如く大事に両手に抱え、自宅に持ち帰る日々が続きました。時にはトラックや貨車を借り切って運んだことさえありました。こうして集めた教育資料は数万点にも及びます。
 当時の日本は高度成長期。古いものは惜しげもなく捨てられる時代でした。すでにこれまでも地震、戦争によって多くの文化財を焼失しています。唐澤コレクションは、危うく破棄されるところだった墨塗り教科書や学校教具、時代を映すノートや筆箱、通知簿、賞状、児童作品、人形、玩具など多くを保存することとなりました。これらの資料をもとに唐澤富太郎は『図説 明治百年の児童史』や『教育博物館』など多くの著作を出版し、「モノによる日本人の人間形成史」の研究を試みました。